映画「フェラーリ」に学ぶ経営理念

私は子供の頃から大の映画好きでして、多い時には年間400本程度観る生活を長く続けて来ました。少し時間が空けば、映画館に行きたくてそわそわする始末。映画を観ていると、ときどきビジネスにも参考になるような場面に出くわすことがあります。コンサルタントとして独立してからは、とりわけそんな映画が気になるようになりました。そこで、ブログにビジネスに関連するようなシーンがある映画を書いてみることにします。気が向いたら書く程度ですので、よろしければご笑覧ください。第1回目は、マイケル・マン監督の新作「フェラーリ」です。

フェラーリを題材とした映画といえば、ジェームズ・マンゴールド監督の「フォードVSフェラーリ(19年)」を思い出しますが、あちらも面白い映画でした。最後のレースの後で、クリスチャン・ベール演じるフォードのドライバーが管制塔にいるエンツォ・フェラーリと視線を交錯させるシーンが素晴らしかった。

今作は、そのエンツォ・フェラーリをアダム・ドライバーが演じています。アダム・ドライバーはリドリー・スコット監督の「ハウス・オブ・グッチ(21年)」でグッチの三代目社長マウリツィオ・グッチも演じていて、どちらもハイブランドの経営者の役です。傲慢だけれども内面に弱さを持つ複雑な人物像というのはアダム・ドライバーの得意とするところです。

映画が扱うのは、エンツォ・フェラーリの一生ではなく、1957年の夏のみに焦点を当てています。この夏、フェラーリ社はレースに莫大な資金をつぎ込み、経営が行き詰っています。顧問税理士が、エンツォ・フェラーリに「レースで優勝すれば車が売れる。だからジャガーは車を売るためにレースに出ている。あなたもそうしたらどうか」と言うと、フェラーリは「私はレースに出るために車を売るのだ」と言い放ちます。いわゆる創業者の経営理念ということでしょう。エンツォ・フェラーリ自身がもともとドライバーです。経営理念は「その会社が社会に存在する意義」です。フェラーリは、「売れる車」を作るために存在するのではなく、「レースで勝てる速い車」を作るために存在するのです。今でもそうなのか?きっとそうなのでしょう。だから、今でも跳ね馬フェラーリは、車好きの人々の心を捉えて離さないのです。勿論、企業は時代に伴い変わっていくべき点も多くあります。スポーツカーはガソリンをまき散らすイメージがありますが、現在のフェラーリはHV(ハイブリッド)車にも力を入れていて、株価も大きく上がっています(日経新聞)。それでも、カリスマ的な創業者の強い意志というものは、時代を越えて強烈な光を放ち続けます。経営理念を、時代とともにアップデートさせていくことは簡単ではありませんが、それができたからこそフェラーリは今でも強いブランドたりえているのでしょう。

映画ではそんな「レースが好きだから」とばかりもいっていられない試練がエンツォ・フェラーリを襲います。それでもしたたかに「速い車」を追い求める姿を、マイケル・マン監督はじっくりと描きます。その姿は狂気にも映りますが、今に続くフェラーリを支える、偉大なる経営理念でもあるのです。